みずいぼ(伝染性軟属腫)
➀「医学的解説」
(1)病態
皮膚に対するウイルス感染症です。皮膚は外から病原微生物(*病原性のもつ細菌や、ウイルスや、真菌)が入り込まないようにバリアの機能を持ちます。
この感染症はこのバリア機能がまだ十分でない、幼児期のこどもに多くみられます。
伝染性軟属腫ウイルスという名前のウイルスが、ウイルスで汚染された手を介して、目に見えないような小さい傷に入り込み感染した結果、軟属腫(いぼ)を形成します。
このいぼの中にウイルスが潜んでいて、潰れたいぼを触った手で、体の他の場所をさわることで、その場所でまた感染を起こしいぼをつくります。
他の手のひらと足の裏以外のからだのありとあらゆる場所に移ります。
いぼが生じやすい場所と性質
特に出やすい場所としては、胸の横側や脇下、肩から肘にかけての腕の内側などの皮膚と皮膚のこすれが生じる場所では数多くいぼが出来る傾向があります。
いぼは通常2~3mmの大きさですが、1㎝を超える事もあります。表面はつやつやしており、光沢がかってみえます。
皮膚バリア機能が低いこどもは要注意
乾燥肌のこども、アトピー性皮膚炎があるこどもは皮膚のバリア機能がもともと低く、いぼが広範囲に多数出現する傾向があります。
その後感染したウイルスに対する免疫が働くようになり、多くの経過で半年~1年程度から消えて治っていきます。
まれですが、3年以上残る場合もあります。
(2)症状
基本的にはかゆみ、いたみはなく無症状です。まれにいぼの周辺が乾燥して湿疹病変をつくるためにかゆみの原因になりますが、かゆみの程度は通常つよくありません。
(3)検査・診断方法
多くのこどもが典型的な臨床経過を辿るため、通常は検査を行う事はなく、問診と診察により診断を行います。
診断がつかない場合、いぼをとって顕微鏡を使用して診断を行います。
(4)治療法
自然に軽快する感染症であり、治癒後の後遺症もないため積極的に治療を行う事については議論が分かれております。
即効性があり、効果が確実であるとされる飲み薬・塗り薬がなく、いぼ自体に対する医療的処置(摘除等)という手段もありますが、特に必要性が理解出来ないこどもには、恐怖心を強く与えてしまう可能性があります。
顔面の目立つところにあり、整容的観点より問題(いじめにあう、本人が非常に気にしている等)がある場合は精神的な負担が懸念されるため、積極的に治療を検討したほうがよいと思います。
その場合にはかかりつけ医に相談をしましょう。
➁「早期発見のポイント」
前述の通り早期発見をしなければならない病気ではありません。
入浴中に気づいたらあった、着替えを手伝っている最中にみつけたという場合が多いです。
なんとなくポリポリかいているところをみたら見つけたという経過で発見されることもあります。
前述のとおり急いで病院にいく必要はありませんが、経過観察を行っていくか、摘除を含めた積極的に治療を行っていくか、方針の確認をかかりつけの医師に相談しましょう。
③「予防の基礎知識」
伝染性軟属腫ウイルスは接触感染という感染経路で感染拡大をします。
➀病巣を触った手指を介して➁病巣を触った手指により汚染された環境(ドアノブ、遊具等)、この2点からの感染が主なため、感染予防にはこまめな手洗いと、環境衛生の維持が一番重要です。
その先にある、伝染性軟属腫固有の予防の方法としては大きく2つにわかれ、罹ってしまったいぼから、他のこどもに感染させない、自分の体の他の場所への感染をさせない、という方法(能動的感染拡大防止)、まだ罹っていないこどもをいぼから守る(積極的感染予防)、この2つ方法です。
他のこどもに感染させない、自分の体の他の場所への感染をさせない
いぼに触れる頻度を減らす
まず、いぼが露出部(お洋服で隠れない場所)に存在しているときはなるべく覆ってしまう(包帯、耐水性ばんそうこう等)ようにすると、手指がウイルスに汚染される頻度を減らせることに加え、気付かない環境汚染が抑制できることから、結果として感染拡大を防止することにつながります。
保湿剤や内服液を使用する
皮膚バリア機能が低い乾燥肌のこども、アトピー性皮膚炎のこどもは保湿剤を使用することで、バリア機能の一部を強化することに期待が出来ます。
中でもアトピー性皮膚炎があるこどもは、慢性的にかゆみがある場合が少なくないために、掻把行動(*ひっかき行為)によりウイルスが手指により付着しやすいということがあります。
アトピー性皮膚炎のかゆみを抑える手助けをする内服薬がありますので、かかりつけの先生に相談するとよいと思います。
かかっていないこどもがいぼから守る手段
まだかかっていないこどもがいぼから守る手段としては、前述のバリア機能がそもそも低いこどもには原疾患の治療を行うことがバリア機能を高めておくことに繋がり重要であるといえます。
また相撲・柔道等のコンタクトスポーツを行う場合は、周りの大人達が肌と肌が直接触れ合う可能性のある露出部に、いぼがないかを積極的に確認しておこなうようにするとよいと思います。
伝染性軟属腫のこどもがプールにはいってよいか?
この能動的感染拡大防止、積極的感染予防の両観点よりこれまで時々問題となってきたのが、“伝染性軟属腫のこどもがプールにはいってよいか?”という問題です。
つまり感染予防の観点より、入水時における露出部が増えることに加え、特に幼児期のこどもは、皮膚と皮膚との直接的な接触を完全位は避けがたい状況下で感染リスクが高まることが想定されるため、そのような状況下で伝染性軟属腫に罹患している児のプールへの入水に関して、どのように対応していけばよいか?という疑問が生じます。
現在の医学的対応の統一見解としては、「保育所における感染症対策ガイドライン2018」というガイドラインが厚生労働省よりでております。
この中で“入水制限は不要。ただしタオル、浮き輪、ビート板などを介してうつすことがあるため、これらを共用することはできるだけ避ける。”となっております。
プールの後は保湿剤を使用しましょう
またアトピー性皮膚炎のこどもには入水後のバリア機能低下のサポートを行うため保湿剤の使用が勧められております。
現在COVID-19感染症拡大対策の観点から、これまで行われたプールも含めたこどもの様々な生活面に著しい制限がかかっている悲しい実情がありますが、こと伝染性軟属腫の予防といった観点のみから言えば、プールは条件が許せば入水可能といえます。