こどもが発熱したときの対応
~解熱剤はどう使用する?~
発熱時に熱でつらそうだなと保護者が判断したときに適切な時間帯を考慮して使用する。
熱は積極的にさげたほうがよいという十分な根拠はない。
解熱剤における経口薬(散剤、シロップ剤)、座薬もどちらも効果は同等。

感冒時に処方されることの多い解熱剤ですが、よく「(体温が)何度になったら使ったほうがいいですか?」と聞かれることがあります。
最初に答えをお伝えすると、「お父様、お母様が、お子様をみたときに、熱でつらそうだなと主観的判断したタイミングで使用してください。ただ効果は限定的で、使用時の体温より2℃下がることはめったにないし、効果も1~2時間でなくなります。そのため『熱でねむりづらそう』『熱で水分がとれなそう』という場合をお勧めします。病気が改善すれば自然に熱がでなくなります。」とご説明しています。
お薬手帳を拝見すると、解熱剤の添付文書(取り扱い説明書のようなもの)には以下のような使用方法の記載が一切ないにも拘わらず、「体温が38.5℃以上のときに使用」と指示された記載が散見されます。では、なぜこのような指示がでるのかについてもお伝えします。
ここは長いので、興味がある方は続けてお読みください。
一番の原因と思われる点はこの「体温が38.5℃以上の患児に解熱剤を使用」という指示は実際に入院している患児にはよく使われる指示だからです。実際にこの指示は非常に有用です。
まず、この「38.5℃以上」という概念は医療統計学的にいわゆる「高熱」に分類される数値となります。皆さんもお気づきのように極端な話、体温37.6℃のときより40℃近くのほうが「つらい」と自覚することが多いと思います。
入院中は医療者(主に看護師)が体温の観察をしているケースが多いです。しかし医療現場においては、観察者が「熱が高くてつらそうだ」と思ったという曖昧模糊とした基準で意思疎通の難しい小児患者に医療的処置・治療が行われることはありません。この場合は処置・治療が解熱剤の使用有無にあたります。そのために前述のとおり「38.5℃以上である場合は『つらい』可能性が、微熱のときよりも存在している可能性が高い」ために、解熱剤を使用すれば、結果、その「つらさ」を軽減出来るであろうという医学的判断根拠に基づいた使用となります。
また人間は熱があがるにつれに、体の中の酸素需要が高まります。高熱がでて、息があがる経験をされたことがある方は多くいると思いますが、これは呼吸の回数を増やして体の中の酸素の取り込みを効率化する生理現象です。
入院している子は、少なくとも外来で経過をみられない『中等症』になるので、解熱剤を使用することで、体の負担を少しでも軽減する効果も期待して、この指示を出します。
医療現場が円滑に進み、かつ入院患児の身体軽減効果も望める効率的な指示となります。
ご自宅で療養する場合は、お子様が「つらそう」か?どうか?一番明確にわかっているのは保護者です。ご自宅で、お子様に高熱があっても、意外と元気だなぁと思った経験をもたれる保護者の方も少なくないと思います。いわゆる余力の多い患児に対する解熱剤の身体軽減効果はあくまで一時的なものです。
実際に入院している患児においても解熱剤の積極的使用で退院が早まることはないので、その軽減効果は残念ながらあくまで微力と言わざると得ません。
入院中の子においては、病気の鑑別を行うため、また治療効果の判定のために、あえて解熱剤を使用せずに熱の経過を観察する場合もあります。
38.5℃未満で解熱剤を使用しても問題ないのか?
これに関してもお伝えします。問題ありません。問題が生じる危険性があるお子様には処方しないからです。
前述の通り解熱剤の使用は下がっても2℃、例えば37.5℃使用しても、35.5℃程度です(それでもめったにそこまで下がりません。)下がったとしても35.5℃程度であれば環境温変化によってもたらされた低体温ではありませんので進行はしません(お薬が代謝されれば体温が戻るため)。そもそもこの程度の低体温であれば患児に有害事象は生じません。
実際に解熱剤は『解熱鎮痛剤』として後者の鎮痛効果を期待し、処方されることもあります。中耳炎の経験をされたお子様をお持ちのお母様は熱の有無に関わらず『耳痛』が出現したときに使用してもよいと先生からお伝えされたことも多いかと思います。
解熱剤は座薬のほうが優れている?(効果が高い?)
これに関しては、飲み薬でも座薬でも効果発現時間、作用強度、効果持続時間に大きな差はなく、平たく言えば同等です。
座薬の利点は、お子様が熱で不機嫌なときに飲み薬を嫌がるケースがあり困り果ててしまった場合、強制的に保護者の方が行うことが出来る唯一の方法です。
勿論内服薬にしても座薬にしても、いやがる我が子に本当に使用するべきタイミングかどうか、熟考して使用して頂ければと存じます。
有熱時は解熱剤を使用しなくても、積極的にさげたほうがよい?
自宅療養可能な一般的な感冒を主体とするウイルス感染症に対しては、熱を積極的に下げても病気の重症化を避けたり、合併症を避けたり、治癒を早めたりはしません。積極的に下げることのメリットはありません。
体を冷やすことでお子様が「ここちよい(=体が楽になる)」のであればやってあげてよいと思います。
冷やす場合は、首(喉仏の左右あたり)や鼠径(足のつけね)を冷やすと冷却効果があります。小さいお子様は氷嚢を背中に背負わせるのも手です。
ただし上記方法は、大抵のお子様はいやがります。気持ちよさそうにしているのであればよいと思います。
おでこに水を絞ったタオルをあてる等は、冷却効果は全くありません。ただ当人が気持ちよければやってあげてよいと思います。(これに関しては「気持ちがよい」というお子様は多いです。)ただわざわざ商品化されたものを、お金をだして購入してまでやらなくてよいと思います。
こどもにとっては、病気でつらいときに、保護者が何かを自分が気持ちのよいこと、優しくしてくれことが何より大事なことと思います。そばにいて体をさすってあげるだけでも十分です。